山火事による被害と火災保険の賢い活用術

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目次

1.山火事の発生状況
2.火災保険でカバーされる山火事被害の範囲
3.山火事被害に備えるためのチェックリスト

山火事の発生状況

近年、気候変動の影響により、日本国内でも山火事の発生が懸念されています。消防庁の統計によると、日本における林野火災(山火事)の年間発生件数は減少傾向にありますが、ひとたび大規模化すると、広範囲にわたる甚大な被害をもたらす可能性があります。2019年の長野県・栃木県、2021年の群馬県、2025年の岩手県・岡山県における大規模な山火事は、その延焼の速さと被害の大きさを物語っています。

「山の中の火事だから、自分の家には関係ない」と思われがちですが、風が強ければ火の粉が数キロメートル先まで飛ぶこともあり、住宅街にまで延焼するリスクは決して低くありません。このような状況において、火災保険は山火事という予期せぬ災害から、私たちの生活と財産を守るための重要なセーフティーネットとなります。

しかし、「火災保険は火事の時だけ」という認識はあっても、「山火事による延焼も補償の対象になるの?」と疑問に思う方もいるでしょう。このコラムでは、山火事の被害に備えるための火災保険の仕組みと、事前の備えについて詳しく解説します。

火災保険でカバーされる山火事被害の範囲

火災保険は、火災による損害を補償するための保険ですが、山火事による被害も補償の対象となるのが一般的です。以下のような損害が補償の対象となります。

建物や家財の直接的な火災被害:山火事の延焼によって、建物そのものや、家具、家電などの家財が焼失した場合、火災保険の基本補償で補償されます。

延焼による損害:山火事から飛び火(飛火)して、自宅の建物や家財が損害を受けた場合も補償の対象です。たとえ火元が遠くの山であっても、その延焼によって受けた損害は火災保険でカバーされます。

消火活動による損害:消火活動のために、消防隊が窓ガラスを割って放水したり、壁を壊したりしたことによる損害も、火災保険の補償対象となります。

ただし、注意が必要な点もあります。補償の対象は「火災」による損害であるため、山火事によって発生した煙や熱で建物が汚れたり、物が変形したりした場合でも、火災による直接的な損害と認められない場合は、補償の対象外となることがあります。また、落雷による火災は、多くの火災保険の基本補償に含まれていますが、地震や噴火を原因とする火災は、火災保険では補償されません。これらに備えるためには、別途「地震保険」に加入する必要があります。

ご自身の契約内容によって補償範囲や条件が異なるため、必ずご加入の保険会社の情報を確認しましょう。

山火事被害に備えるためのチェックリスト

万が一の事態に備え、被害を最小限に抑えるためには、日頃からの備えと準備が重要です。ここでは、事前の対策について解説します。

・ご自身の火災保険契約の再確認

まず、お手元にある火災保険の証券や契約内容を改めて確認しましょう。

補償範囲と対象:建物だけでなく、家財も補償対象となっているかを確認しましょう。家財の補償は、家具や家電、衣類など、日々の生活を支える持ち物を守るために不可欠です。

保険金額:建物や家財の評価額に対して、適切な保険金額が設定されているか確認します。国土交通省の資料や、保険会社の情報などを参考に、現在の資産価値に見合った金額か見直すことが大切です。

免責金額:災害時に自己負担する金額(免責金額)がいくらなのかを把握しておきましょう。

・事前の建物点検と対策

被害に遭うリスクを減らすため、建物の周りを日頃からチェックしておきましょう。東京消防庁などの公的機関も、以下の対策を推奨しています。

家の周りの整理整頓:家の周りに燃えやすい物を置かないようにしましょう。段ボール、新聞紙、木材、枯れ葉などは、風で飛んできた火の粉から引火する可能性があります。

建物の弱点チェック:屋根や外壁にひび割れや隙間がないか、窓ガラスに割れがないかなどを確認し、必要に応じて修理しましょう。

可燃物の除去:敷地内の枯れ草や落ち葉を定期的に清掃し、燃えやすい状態のものをなくしておくことも重要です。

・災害情報の確認と避難計画

万が一の事態に備え、日頃から災害情報を確認し、避難の準備をしておくことが大切です。

災害情報の確認:気象庁や自治体が提供する防災情報、特に「乾燥注意報」や「火災警報」などに注意を払いましょう。山火事の危険性が高まっている場合は、速やかに情報を入手し、行動できるようにしておくことが重要です。

避難計画の作成:万が一、避難が必要になった場合に備え、避難場所や避難経路を事前に確認しておきましょう。家族と連絡を取り合う方法についても話し合っておくと安心です。

山火事は、個人の力だけで防ぎきれるものではありませんが、日頃から備えておくことで、被害を最小限に抑えることができます。この機会に、ご自身の火災保険の契約内容を見直し、事前の備えについてご家族と話し合ってみるのはいかがでしょうか。



執筆者:ファイナンシャルプランナー 信太 明
掲載日:2025/9/3