失火による被害と火災保険の賢い活用術

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目次

1.失火の発生状況と失火責任法
2.火災保険でカバーされる失火被害の範囲
3.失火被害に備えるためのチェックリスト

失火の発生状況

火災保険は「火事」のための保険、そう考えている人は少なくありません。しかし、火災保険には私たちの身近に潜むさまざまなリスクに備える役割があります。そのひとつが、ご近所への延焼によって生じる損害です。

日本の法律では、失火により他人の家や財産を燃やしてしまっても、重大な過失がなければ損害賠償責任を負わないとする「失火責任法」があります。これは「失火者に過失がなかった場合にまで賠償を求めると、被害が甚大になり失火者の生活再建を妨げる」という考えに基づいています。

しかし、この法律によって、失火で家を失った被害者は、失火元に損害賠償を請求できず、大きな経済的負担を抱えることになります。そのため、失火を起こした加害者側の備えだけでなく、万が一の被害者となる可能性も考慮した火災保険への加入が、私たちの生活を守るために重要となります。

・失火責任法と「重大な過失」

失火責任法は、火災の原因が「故意」または「重大な過失」によるものでない限り、賠償責任を問わないと定めています。では、この「重大な過失」とは、具体的にどのような場合を指すのでしょうか?

裁判所の判例や、総務省消防庁の資料、日本損害保険協会の見解などを参考にすると、重大な過失とは、わずかな注意を払えば火災を防ぐことができたにもかかわらず、著しく注意を怠った結果、火災を引き起こした場合を指します。

以下は、一般的に重大な過失と判断される可能性のあるケースの例です。

天ぷら油の過熱放置:揚げ物の最中にその場を離れ、油の過熱によって火災が発生した場合。

寝たばこ:寝ながら喫煙し、火のついたたばこが布団などに引火した場合。

ストーブの管理不備:可燃物の近くでストーブを使用したり、給油中に火をつけたりした場合。

このような重大な過失が認められると、失火責任法は適用されず、被害者に対して損害賠償責任が発生します。高額な賠償金を請求されることもあり、備えがないと自己破産に追い込まれるなど、生活の基盤を失うリスクがあります。

火災保険でカバーされる失火被害の範囲

失火による損害は、火災保険の「類焼損害補償特約」や「個人賠償責任保険」で備えることができます。ご自身の火災保険にこれらの補償が付帯しているか、必ず確認しましょう。

・類焼損害補償特約

ご自身の家からの失火で、ご近所の建物や家財に延焼してしまった場合に備える特約です。失火責任法により、延焼先の被害者はご自身に損害賠償を請求できません。しかし、この特約が付帯していれば、被害者へ見舞金として保険金が支払われるため、近隣住民との関係悪化を防ぐことにもつながります。この特約は、被害者への賠償責任を問うものではなく、あくまで「お見舞金」という形で支払われる点に注意が必要です。

・個人賠償責任保険特約

ご自身やご家族が、日常生活で他人にケガをさせてしまったり、他人の物を壊してしまったりしたときの法律上の損害賠償責任を補償する保険です。火災の場合、重大な過失が認められ、延焼先の被害者から損害賠償を請求された場合に備えることができます。火災保険の特約として付帯できることが多いほか、自動車保険や傷害保険の特約として契約している場合もあるため、ご自身の保険契約を確認してみましょう。

また、ご自身の財産を守るためにも、火災保険の「家財保険」への加入が大切です。万が一、ご近所の失火によってご自身の家や家財が燃えてしまった場合、失火責任法により相手方に損害賠償を請求できません。しかし、ご自身が家財保険に加入していれば、自分の保険で家財の損害を補償できます。

失火被害に備えるためのチェックリスト

火災はいつ、どこで発生するかわかりません。もしものときに備えるため、日頃からできる対策と、保険契約の確認が重要です。

・ご自身の火災保険契約の再確認

家財保険に加入しているか:建物だけでなく、家具や家電、衣類などの家財も補償対象になっているかを確認しましょう。

類焼損害補償特約が付帯しているか:万が一、ご近所に延焼してしまった場合に備え、この特約が付いているかを確認しましょう。

個人賠償責任保険の有無:火災による重大な過失のほか、日常生活のさまざまなリスクに備えるため、この保険に加入しているかを確認しておきましょう。

・火災予防のための点検と対策

住宅用火災警報器の設置と点検:定期的に作動確認をし、電池切れや機器の不具合がないか確認しましょう。

電気機器の安全な使用:たこ足配線は避け、コンセント周りにほこりがたまっていないか確認しましょう。

調理中の注意:コンロを使用する際は、その場を離れないようにしましょう。

ストーブやたばこの火の始末:ストーブの周りに燃えやすい物を置かず、寝たばこは絶対にやめましょう。

火災保険は、火事からご自身の家や財産を守るだけでなく、失火による近隣への延焼リスクや、ご近所の失火による被害にも備えるための重要なセーフティーネットです。一度、ご自身の契約内容を確認してみてはいかがでしょうか。



執筆者:ファイナンシャルプランナー 信太 明
掲載日:2025/9/3