台風による被害と火災保険の賢い活用術

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目次
1.頻発する台風被害と火災保険の重要性
2.火災保険でカバーされる台風被害の範囲
3.台風被害に備えるためのチェックリスト
頻発する台風被害と火災保険の重要性
近年、日本列島は気象変動の影響を強く受けており、台風の大型化や強力化が顕著になっています。気象庁の統計データによると、日本近海で発生する台風の数は年間平均で25個程度とされ、特に2018年の「平成30年台風21号」や2019年の「令和元年房総半島台風」などは、その勢力の強さから広範囲にわたり甚大な被害をもたらしました。日本損害保険協会の調査によれば、これらの台風による風水害で支払われた損害保険金は、それぞれ1兆円を超える巨額に達しています。この数字は、火災保険が単なる「火事」の備えに留まらず、台風という自然災害から私たちの生活を守るための重要なセーフティーネットであることを物語っています。
しかしながら、「火災保険は火災が起きたときだけ」という誤解から、台風で被害を受けても保険金の請求手続きをしない人が少なくありません。このコラムでは、こうした誤解を解き、台風被害に備えるための火災保険の仕組みと、事前の備えについて、公的機関や保険会社の情報を基に詳しく解説します。
火災保険でカバーされる台風被害の範囲
火災保険の補償範囲は、火事だけにとどまりません。台風による損害を補償する主な項目は以下の通りです。ご自身の火災保険にどの補償が付帯しているか、必ず確認しましょう。
・風災補償
強風や突風によって建物や家財が受けた損害を補償するものです。これは多くの火災保険の基本補償に含まれています。具体的には、以下のような被害が補償の対象となります。
建物の破損: 台風の強風で屋根瓦が飛ばされたり、スレートが剥がれたり、外壁が破損したりする被害です。飛来物が建物に衝突して窓ガラスが割れた場合も、この補償の対象となることがあります。
付属物の損壊: カーポートや物置、フェンス、雨樋など、建物に付属する構造物の損壊も補償の対象です。強風で雨樋が歪んだり、外れたりするケースは非常に多く見られます。
家財の被害: 台風の強風で窓ガラスが割れ、室内に雨が吹き込んで家財(家具、家電、衣類など)が濡れてしまった場合も、風災による損害として補償される可能性があります。
・水災補償
台風に伴う洪水や高潮、土砂崩れによる損害を補償します。これは、風災補償とは異なり、火災保険の基本補償には含まれず、多くの場合、別途オプションとして契約する必要があります。特に、ハザードマップで浸水リスクが高いとされている地域にお住まいの方は、この補償の有無が非常に重要となります。
・落雷補償
台風接近時に発生する落雷によって、建物(壁、屋根など)や電気設備(テレビ、エアコン、給湯器など)が損害を受けた場合に補償されます。
これらの補償は非常に心強いものですが、補償の対象外となるケースもあります。特に注意が必要なのが「経年劣化」です。台風の被害に見えても、その根本的な原因が建物の老朽化や長年の使用による損耗と判断された場合、保険金は支払われません。また、地震や津波による被害は、火災保険の補償範囲外です。これらの災害に備えるためには、別途「地震保険」に加入する必要があります。
台風被害に備えるためのチェックリスト
被害に遭ってから慌てることのないよう、事前の確認と準備が重要です。ここでは、日頃からできる備えについて解説します。
・ご自身の火災保険契約の再確認
まず、お手元にある火災保険の証券や契約内容を改めて確認しましょう。
補償範囲と対象: 風災や水災の補償が付帯しているか、また、建物だけでなく家財も補償対象となっているかを確認します。家財の補償は、ご自身の持ち物(家具、家電、衣類など)を守るために不可欠です。
免責金額: 災害時に自己負担する金額(免責金額)がいくらなのかを把握しておきましょう。免責金額の設定が高ければ保険料は安くなりますが、いざという時の自己負担が大きくなります。
保険金額: 建物や家財の評価額に対して、適切な保険金額が設定されているか確認します。適切な金額でない場合、全損時でも修理費用をまかなえない可能性があります。
・事前の建物点検と対策
台風が来る前に、ご自宅や周辺の状況をチェックし、被害を最小限に抑えるための対策をとりましょう。東京消防庁などの公的機関も、以下の対策を推奨しています。
家の周りの安全確保: 植木鉢や物干し竿、ゴミ箱など、風で飛ばされやすいものは、事前に家の中に入れるか、しっかりと固定しておきましょう。
建物の弱点チェック: 屋根瓦や雨樋にぐらつきがないか、窓ガラスにひび割れがないかなどを確認します。
窓の補強: 窓ガラスの破損を防ぐため、飛散防止フィルムを貼ったり、雨戸を閉めたりする対策も有効です。
排水路の清掃: 雨樋や側溝に落ち葉や泥が詰まっていると、浸水のリスクが高まります。事前に清掃しておきましょう。
・災害情報の確認と避難計画
ご自宅がどのような災害リスクを抱えているか、事前に把握しておくことが大切です。
ハザードマップの確認: 国土交通省や各自治体が公開しているハザードマップで、ご自宅が洪水や土砂災害の危険区域に該当しないかを確認し、避難経路や避難場所を事前に決めておきましょう。
最新の気象情報: 台風が接近する際は、テレビやラジオ、インターネットで最新の気象情報をこまめにチェックし、避難情報に注意を払いましょう。
事前の備えと保険の活用は、台風という自然災害から大切な住まいと家族を守るための両輪です。まずは、ご自身の保険契約を確認しましょう。
執筆者:ファイナンシャルプランナー 信太 明
掲載日:2025/9/2